ずいぶん前に池澤夏樹氏のエッセイで目に触れて読んだ本をあらためて読みかえした。もちろん福島第一原発を念頭に置いてである。もはや軽水炉より有利というだけでは積極的に採用を進める理由にはならない。はたしてトリウム溶融塩炉は大規模災害に耐えうるか。
結論から言うと、たしかにトリウム溶融塩炉には軽水炉より優れた点が認められるが、軽水炉にはない欠点もあり、災害の際の被害規模には関しては差がないように思えた。
最大の障害は著者自身が触れているガンマ線の問題だろう。トリウム-ウラン核燃料サイクルで核分裂時に発生するガンマ線は通常運転時の炉の管理の障害としても未解決の課題とされているが、原子炉建屋が崩壊するほどのダメージを受けた際にはアルファ線やベータ線とはまた別のかたちの被害の拡大が予想される。影響範囲を考慮するとむしろひどいかもしれない。ガンマ線に関しては放射性物質のマーカとしてむしろ積極的な意味づけをされているが、自爆テロが一般的となった現代ではこの評価はあらためざるを得まい。また黒鉛の減速材使用も火災発生時の危険性を高めるように感じる。
結局のところ核分裂を利用した発電施設として最大の課題が放射性物質の取りあつかいにある点はトリウム溶融塩炉も軽水炉と変わりない。通常運用のみを考えれば軽水炉より有利と言いうるかもしれないが、そのメリットをもって軽水炉の後継として推進するのはもはやむずかしいのではないか。著者自身が主張するとおりの、自然エネルギー活用が実用的になるまでのつなぎとして厳しく割り切るのでなければ推進する理由はないと個人的には考える。